生成AIの内製化を進めるには?メリット・デメリットと成功へのステップを解説

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近年、ビジネスにおけるAI活用、特に生成AIへの注目が急速に高まっています。自社の業務効率化や新たなサービス開発をめざし、「生成AIを内製化したい」と考える企業も増えてきているのではないでしょうか。しかし、具体的に何から始めれば良いのか、どのようなメリットやデメリットがあるのか、不安や疑問を抱えている方も少なくないはずです。  

この記事では、生成AIの内製化について、その基本的な定義から、具体的な進め方、成功のポイント、さらには実際の事例に至るまで、網羅的に解説します。 

生成AIの内製化とは何か?

生成AIの内製化を検討するにあたり、まずはその定義と、関連する選択肢について正しく理解することが重要です。ここでは、生成AIの基本的な概念と、内製化が外部委託とどう違うのかを明確にします。

生成AIの基本的な定義

生成AIとは、テキスト、画像、音声、プログラムコードなど、新しいオリジナルのコンテンツを生成できるAI(人工知能)のことです。従来のAIが主にデータの分類や予測を行うのに対し、生成AIは学習データに基づいて創造的なアウトプットを生み出す能力を持っています。代表的な例としては、対話型の「ChatGPT」や画像生成の「Stable Diffusion」などが挙げられます。これらの技術は、企業のマーケティング活動、コンテンツ作成、研究開発など、多岐にわたる分野での活用が期待されます。

内製化と外部委託の明確な違い

生成AIをビジネスに導入する際、企業は主に「内製化」と「外部委託」の2つの選択肢を検討することになります。 

内製化とは、企業が自社のリソース(人材、設備、データなど)を活用して、生成AIシステムやアプリケーションの企画、開発、運用までを一貫して行うことをさします。これに対し、外部委託は、AI開発の専門企業やベンダーに、システム開発や運用の一部または全部を委託する方法です。

比較項目内製化外部委託
主導権自社外部ベンダー
ノウハウ蓄積社内に蓄積されやすい社内に蓄積されにくい
カスタマイズ性高い契約範囲やベンダーの技術力に依存
コスト構造初期投資が大きくなる傾向があり、ランニングコストは運用の仕方によって変動。初期投資を抑えられる場合もあるが、継続的な委託費用が発生
スピード社内調整がスムーズに進めば迅速な対応が可能だが、リソース不足の場合は遅延する場合もある。ベンダーの対応力による
セキュリティ自社の管理下でセキュリティをコントロールしやすい。外部へデータを提供する際のリスクを考慮する必要がある。

どちらの方法が最適かは、企業の目的、リソース、技術力、予算などによって異なります。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合わせて慎重に判断することが求められます。

生成AIを内製化するメリット

生成AIの内製化は、企業にとって多くの魅力的なメリットをもたらす可能性があります。ここでは、主な利点を4つの側面から具体的に解説します。これらのメリットを理解することは、内製化を推進するかどうかの重要な判断材料となるでしょう。

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コスト最適化と投資対効果の向上

長期的には、生成AIの内製化によってコストが最適化される可能性があります。外部へ委託する場合、継続的なライセンス費用や開発・運用委託費用が発生しますが、内製化に成功すれば、これらの外部へ支払うコストを削減できます。もちろん、初期段階では人材の採用や育成、インフラの構築などに投資が必要ですが、一度軌道に乗れば、開発したAIモデルやシステムを複数のプロジェクトに応用することで、投資対効果を高めることも期待されます。自社のニーズに合わせて機能を拡張したり改善したりする際も、外部ベンダーとの調整にかかるコストや追加費用を抑えられる点は大きな魅力と言えるでしょう。

自社データ活用によるセキュリティ強化

生成AIの性能は、学習させるデータの質と量に大きく左右されます。内製化の大きなメリットのひとつは、自社が保有する独自のデータを最大限に活用できる点にあります。顧客データや業務データといった社外秘性の高い情報を外部へ出すことなく、安全な環境でAIモデルの学習や運用を行えます。これにより、情報漏洩のリスクを低減させ、自社の競争優位性につながる独自のAIソリューションを構築することが可能となります。特に、機密情報を扱う金融業界や医療業界などでは、セキュリティ管理の観点から内製化が好まれる傾向にあります。

社内における技術とノウハウの蓄積

生成AIの内製化プロジェクトを通じて、AIに関する専門的な技術、開発ノウハウ、運用経験が社内に蓄積されます。これは、企業にとって非常に価値のある無形資産となります。AI人材が育成され、社内で知識が共有されることで、将来的に新たなAIプロジェクトを立ち上げる際の開発スピードが向上したり、外部環境の変化へ迅速に対応できるようになったりします。また、社内にAI技術を理解する人材が増えることは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を全社的に推進していく上でも大きな力となるでしょう。

柔軟かつ迅速なシステムカスタマイズ

ビジネスの状況や市場のニーズは常に変化します。生成AIを内製化していれば、そのような変化に対して柔軟かつ迅速にシステムをカスタマイズしたり改善したりすることが可能です。外部ベンダーへ委託している場合、仕様変更や機能追加には契約の見直しや追加費用、開発期間が必要となることが一般的ですが、内製であれば社内の判断で迅速に対応できます。自社のビジネス戦略に合わせてAIシステムを最適化し続けることができるため、競争優位性を維持・強化しやすくなります。

生成AI内製化の注意点

生成AIの内製化は多くのメリットをもたらす一方で、いくつかのデメリットや注意すべき点も存在します。これらを事前に把握し、対策を講じることが、内製化プロジェクトを成功に導くためには不可欠です。

初期投資とリソース確保の大きな課題

生成AIの内製化には、相応の初期投資が必要です。高性能な計算リソース(GPUなど)の確保、開発環境の構築、専門的なソフトウェアやツールの導入には、多額の費用がかかる場合があります。また、プロジェクトを推進するための予算だけでなく、時間的リソースや人的リソースの確保も重要な課題です。これらの投資は、プロジェクトが期待通りの成果を上げるまで回収できない可能性も考慮し、経営判断として慎重な検討が求められます。

専門人材の採用と育成の難易度

生成AIの開発や運用には、AIエンジニア、データサイエンティスト、機械学習エンジニアといった高度な専門知識を持つ人材が不可欠です。しかし、これらの専門人材は市場全体で不足しており、採用競争が激化しています。優秀な人材を確保することは容易ではなく、採用できたとしても高額な人件費が発生する可能性があります。また、既存の社員を育成するにも時間とコストがかかり、専門知識を習得するためには継続的な学習環境の提供が不可欠です。人材確保と育成の戦略は、内製化の成否を左右する重要な要素と言えるでしょう。

開発プロジェクト長期化のリスク管理

生成AIの内製化プロジェクトは、その技術的な複雑さや前例の少なさから、当初の計画よりも開発期間が長期化するリスクを伴います。特に、明確な目標設定がなされていない場合や、途中で要件が頻繁に変更される場合には、プロジェクトが迷走しやすくなります。プロジェクトが長期化すると、コストが増大するだけでなく、市場投入のタイミングを逃し、ビジネスチャンスを失う可能性もあります。適切なプロジェクト管理手法を導入し、定期的な進捗確認とリスク評価を行うことが重要です。

倫理的・法的リスクへの適切な対応

生成AIの利用には、著作権侵害、個人情報保護、差別的なコンテンツの生成といった倫理的・法的なリスクが伴います。たとえば、AIが生成したコンテンツが既存の著作物を無断で利用していた場合、著作権侵害に問われる可能性があります。また、学習データに偏りがあった場合、AIが不公平な判断や差別的な表現を生み出してしまうことも考えられます。企業はこれらのリスクを十分に理解し、ガイドラインの策定、学習データの適切な管理、生成物のチェック体制の構築など、適切な対策を講じる責任があります。

生成AI内製化を成功させるための進め方

生成AIの内製化は、計画的かつ段階的に進めることが成功の鍵となります。ここでは、内製化プロジェクトを推進するための一般的なステップを5段階に分けて解説します。これらの手順を参考に、自社の状況に合わせて具体的な計画を立てましょう。

手順1:明確な目的とスコープの設定

まず、生成AIを内製化して「何を達成したいのか」という目的を明確に定義します。具体的な業務課題の解決、新しい顧客体験の創出、コスト削減など、目的は企業によって多岐にわたります。目的が明確になることで、プロジェクトの方向性が定まり、関係者の意識統一も図りやすくなります。

次に、プロジェクトの範囲(スコープ)を具体的に定めます。どの業務領域に適用するのか、どのような機能を開発するのか、初期段階でどこまでを目指すのかを明確にすることで、プロジェクトの肥大化や迷走を防ぎます。

手順2:推進体制の構築と人材育成計画

生成AI内製化プロジェクトを推進するための専門チームを組織します。プロジェクトマネージャー、AIエンジニア、データサイエンティスト、業務部門の担当者など、必要な役割を明確にし、それぞれの責任と権限を定めます。

また、社内に専門人材が不足している場合は、外部からの採用と並行して、既存の社員に対する育成計画も立案します。研修プログラムの導入やOJT(On-the-Job Training)を通じて、段階的にスキルアップを図れる体制を整えることが重要となります。

手順3:適切な技術選定と開発環境構築

目的とスコープ、そして利用可能なデータに基づいて、最適なAIモデルや技術を選定します。オープンソースのライブラリを活用するのか、クラウドサービスを利用するのか、あるいは独自のモデルを構築するのかなどを検討します。

選定した技術に合わせて、開発環境やインフラを整備します。データの収集・管理基盤、学習・推論用の計算リソース(GPUサーバーなど)、バージョン管理システム、コミュニケーションツールなど、効率的な開発を進めるために必要な環境を構築することが求められます。

手順4:スモールスタートとPoC(概念実証)の実施

いきなり大規模なシステム開発に着手するのではなく、まずは小規模な範囲でPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施し、技術的な実現可能性や期待される効果を検証します。PoCを通じて、課題の洗い出しや改善点の発見、関係者の理解促進を図ることができます。

PoCの結果が良好であれば、段階的に開発規模を拡大し、実運用に向けたシステム構築を進めます。この際も、アジャイル的なアプローチを取り入れ、短いサイクルで開発とフィードバックを繰り返すことが推奨されます。

手順5:継続的な運用と評価・改善サイクル

開発した生成AIシステムをリリースしたら、それで終わりではありません。実際に運用を開始し、その効果を定期的に測定・評価します。ユーザーからのフィードバックや利用状況のデータを収集し、AIモデルの精度向上や機能改善を継続的に行います。

また、AI技術は日進月歩で進化しているため、常に最新の動向を注視し、必要に応じてシステムをアップデートしていく姿勢が重要となります。運用と評価・改善のサイクルを回し続けることで、生成AIの価値を最大限に引き出すことができます。

生成AI内製化に必要な費用と期間の目安

生成AIの内製化を検討する上で、どの程度の費用と期間を見込んでおくべきかは、多くの企業が関心を持つポイントです。ここでは、一般的な費用の内訳とプロジェクト期間の目安について解説しますが、これらはあくまで一般的な傾向であり、個別のプロジェクトによって大きく変動することをご理解ください。

主な費用の内訳と変動する要因

生成AI内製化にかかる費用は、主に以下の要素で構成されます。

費用項目内容変動要因
人件費AIエンジニア、データサイエンティスト、プロジェクトマネージャー等の給与・採用費専門性、経験年数、雇用形態(正社員、契約、業務委託)
インフラ費用GPUサーバー、ストレージ、ネットワーク機器等の購入・レンタル費用必要な計算能力、データ量、オンプレミスかクラウドか
ソフトウェア費用AI開発プラットフォーム、各種ツール、OS、データベース等のライセンス費用利用するソフトウェアの種類、ユーザー数
データ関連費用データ収集、アノテーション(教師データ作成)、データクレンジング費用データの量・質、アノテーションの複雑さ
外部委託費用コンサルティング、一部開発委託、研修費用など委託範囲、専門家のスキルレベル
その他光熱費、オフィス費用、教育研修費用など 

これらの費用は、プロジェクトの規模、目的とするAIの複雑さ、利用するデータの種類と量、選択する技術スタック、チームのスキルレベルなどによって大きく変動します。小規模なPoCであれば数百万円から可能な場合もありますが、本格的なシステム開発となると数千万円から数億円規模になることも珍しくありません。

内製化プロジェクト期間の一般的な目安

プロジェクト期間も、費用と同様にプロジェクトの特性によって大きく異なります。

  • PoC(概念実証)フェーズ:1か月~3か月程度。小規模なチームで、特定の課題に対する技術的な実現可能性や効果を検証します。

  • プロトタイプ開発フェーズ:3か月~6か月程度。PoCの結果を踏まえ、より実用に近い形でのプロトタイプを開発し、ユーザーテストなどを行います。

  • 本格開発・導入フェーズ:6か月~1年以上。プロトタイプでの検証結果を基に、本格的なシステム開発、テスト、実業務への導入を進めます。

  • 運用・改善フェーズ:システム導入後も、効果測定、モデルの再学習、機能改善などを継続的に行います。

アジャイル開発の手法を取り入れ、段階的にリリースしていくことで、初期段階から価値を提供し、リスクを低減することが可能です。重要なのは、現実的な期間設定と柔軟な計画見直しです。

生成AIの活用事例

生成AIの内製化は、既に多くの企業で具体的な取組みが始まっています。ここでは生成AIの活用事例をご紹介します。

生成AIの業務活用における可能性と課題:事例と導入ステップ、リスク対策まで解説|お役立ち情報|NTT ExCパートナー

生成AI導入でヘルプデスク業務を高品質に保つNTT ExC パートナーの事例

弊社では、ヘルプデスクサービスの品質と効率を共に高めるため、生成AIの導入を積極的に推進しています。多様な事業者のツールを比較検討し、それぞれの目的や業務内容に最適なものを厳選。Proof of Concept(PoC)などを通じた徹底的な検証を行うことで、常に高品質な回答生成を実現している点が強みです。

より詳細な情報は株式会社NTT ExCパートナー(社内活用事例)をご覧ください。

実際に生成AIを内製化するには

生成AIの内製化は大きな可能性を秘めている一方で、専門知識やリソースが必要となるため、慎重な検討と準備が不可欠です。

内製化支援サービスの有効な活用方法

自社だけのリソースで内製化を進めることが難しい場合でも、諦める必要はありません。近年、多くの企業が生成AIの内製化支援サービスを提供しています。これらのサービスは、以下のような形で企業の取組みをサポートします。

  • コンサルティング: 現状分析、課題特定、戦略策定、ロードマップ作成

  • 技術支援: AIモデルの選定・開発、インフラ構築、PoC実施支援

  • 人材育成: 研修プログラムの提供、OJT支援

  • 運用サポート: システムの保守・運用、効果測定、改善提案

これらの支援サービスを上手く活用することで、専門知識の不足を補い、プロジェクトを円滑に進めることができます。自社の状況やニーズに合わせて、最適なパートナーを選ぶことが重要となります。

まずは専門家への相談を検討する

生成AIの内製化は、企業にとって大きな決断です。「何から始めれば良いかわからない」「自社に適した進め方が知りたい」といった疑問や不安を抱えている場合は、まず専門家へ相談することをおすすめします。

専門家は、豊富な知識と経験に基づいて、客観的な視点からアドバイスを提供してくれます。自社の課題や目標を伝えることで、具体的な解決策や内製化の進め方について、より明確なイメージを持つことができるでしょう。相談を通じて、内製化が本当に自社にとって最適な選択肢なのか、あるいは外部委託や他のアプローチがよいのかを判断する材料にもなります。

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まとめ

生成AIの内製化は、コスト最適化、自社データ活用、技術ノウハウの蓄積といった大きなメリットをもたらす一方で、初期投資や専門人材確保などの課題も伴います。成功のためには、明確な目的設定、段階的なアプローチ、そして継続的な改善が不可欠です。

本記事で解説した進め方や注意点を参考に、自社に合った形で生成AIの内製化を検討し、ビジネスの成長と革新を実現してください。

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