人事評価制度の運用のポイントとは?運用の流れなどわかりやすく解説

  • 評価制度

人事評価制度は、従業員の成果を正確に評価し、組織全体の生産性向上を目指す重要な仕組みです。

しかし、せっかく制度設計に時間と労力をかけても、運用が上手くいかないことで問題が生じるケースも多く見られます。

特に、評価基準の不明確さやフィードバック不足は、従業員のモチベーション低下や組織の信頼感を損なう原因となります。また、評価者間の基準のばらつきや制度の形骸化も、制度の効果を妨げる要因です。
そこでこの記事では、人事評価制度運用の課題やその原因を解説し、失敗を防ぐための具体的な対策をご紹介します。

人事評価制度の運用とは

人事評価制度は、従業員の成果やスキル、貢献度を正確に把握し、組織全体の成長を支える仕組みです。しかし、設計された評価制度が適切に運用されなければ、その効果を十分に発揮することはできません。

特に、運用が不透明であったり、一貫性が欠けていたりすると、従業員のモチベーションや信頼感に悪影響を与える可能性があります。人事評価制度を効果的に活用するには、正確な運用プロセスと継続的な改善が不可欠です。
また、人事評価制度は、組織文化やビジョンを従業員に浸透させる手段としても活用できます。具体的には、目標設定時に企業の価値観を反映させたり、フィードバックを通じて成長の方向性を示したりすることが重要です。 
 

適切な運用ができないとどうなるのか

運用が失敗すると、評価制度が単なる「形だけの仕組み」に終わり、従業員の不満や組織の停滞を招く可能性があります。

評価制度の運用が上手くいかない場合、以下のような問題が発生する恐れがあります。

従業員のモチベーションが低下する

評価基準が不明確だったり、一貫性のない評価が行われたりすると、従業員は自身の成果や努力が正当に評価されていないと感じます。
この結果、モチベーションの低下や業務への意欲喪失を招きます。

組織全体の目標達成が難しくなる

評価基準が組織の目標と合っていない場合、従業員は何を優先すべきかわからなくなります。
その結果、個々の目標と組織の方向性がずれ、全体としての目標達成が困難になります。

不公平感や不満が増大する

運用の不備により、評価者ごとの基準が異なったり、フィードバックが不十分だったりすると、従業員間で不公平感が生じます。
これがエンゲージメントの低下や組織内の信頼関係の崩壊につながります。

評価者の負担が増加する

評価制度の運用に関わる業務が煩雑化していると、評価者(管理職)の負担が増えてしまいます。
最悪の場合、評価業務が形骸化し、適切な評価が行われなくなるケースも考えられます。

評価制度そのものへの不信感が広がる

運用の失敗が続くと、従業員は評価制度そのものを信頼しなくなります。
この結果、評価制度は形骸化し、本来の目的である組織の成長や従業員のスキル向上を達成できなくなります。

人事評価制度の運用がうまくいかない原因と対策

人事評価制度が十分に機能しない理由は、制度設計や運用プロセスにさまざまな課題が潜んでいるためです。
これらの課題を特定し、適切な対策を講じることで、評価制度を効果的に運用できるようになります。

以下で、具体的な原因と、その解決策をご紹介します。 
 

評価制度の目的が認識されていない

人事評価制度の導入目的が従業員に浸透していない場合、制度が形骸化する恐れがあります。
たとえば、「何を評価するのか」「その評価がどのように報酬やキャリア形成に反映されるのか」が明確でないと、従業員の納得感が得られません。

対策

■制度の目的を明確化する

組織全体で「評価制度を通じて達成したい目標」を明文化し、全従業員に共有しましょう。

例:業績向上、人材育成、適材適所の配置。

■定期的な説明会やワークショップの実施する

新入社員や中途採用者向けの研修を行い、評価制度の仕組みを理解してもらいましょう。
上司や評価者に対しても目的と基準を定期的に再確認する場を設けます。 

評価期間が適切でない

評価期間が短すぎると、従業員の長期的な成長やスキルの向上を反映しづらくなります。
一方、期間が長すぎても、途中でのモチベーション低下などが問題となります。

さらに、評価期間が不適切であると、目標達成に向けた進捗管理が難しくなり、従業員と管理職の間でのコミュニケーション不足を招く場合もあります。これにより、従業員が目標に対して迷いや不安を感じるリスクが高まります。

対策

■評価期間のバランスを調整する

半期や四半期ごとに短期評価を行い、年間での総合評価に反映させる方式を採用しましょう。
長期的な目標に対しても進捗を評価するため、中間レビューを導入すると効果的です。

■定期的なフィードバックを提供する

評価期間中も、上司と部下に進捗状況を共有する「1on1ミーティング」などを実施し、評価に向けた改善や目標の再設定を行いましょう。

等級制度や報酬制度と連動していない

人事評価制度が、等級制度(役職やランク)や報酬制度と結びついていないと、従業員が評価を受けるメリットを実感しづらくなります。

また、評価結果が昇給や昇進にどのように影響を与えるかが明確でない場合、従業員のエンゲージメントが低下し、長期的なキャリア形成に対する意識も希薄になります。結果として、組織全体の目標達成に対する意欲が削がれる可能性があります。

対策

■評価結果を等級や報酬に直結させる

評価スコアが等級の昇格やボーナス支給に反映されるよう、ルールを整備しましょう。

例:業績評価80%以上で等級アップ、目標達成率70%以上でボーナス増額 など

■キャリアプランと連動させる

従業員ごとにキャリアプランを作成し、評価結果が目標達成にどのように貢献するかを説明しましょう。

例:次期管理職候補の育成で、評価スコアやスキル要件を明確化する。

人事評価制度の運用の流れ

人事評価制度を効果的に運用するためには、設計段階だけでなく、実際の運用プロセスをきちんと構築し、継続的に改善することが重要です。

ここでは、人事評価制度の一般的な運用の流れをステップごとに解説します。

 

目標設定

まずは、各従業員が達成すべき目標を設定することから始めましょう。 この時、従業員自身のキャリアプランや役割、組織全体の目標との整合性を考慮することが大切です。

目標設定のポイント

SMARTの法則(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)を活用して、具体的で測定可能な目標を設定しましょう。 
個人目標と組織目標をリンクさせ、全体の方向性を統一すると効果的です。

目標設定の注意点

曖昧な目標設定は後の評価に影響します。具体的かつ実現可能な内容にすることが大切です。

 

業務

目標を設定できたら、従業員は日々の業務を通じてその目標達成をめざします。 この期間中は、上司やチームメンバーとのコミュニケーションが重要です。

業務を行う際のポイント

進捗状況を適宜確認し、必要に応じて目標の微調整を行いましょう。 定期的な1on1ミーティングを実施し、課題や改善点を話し合う場を設けることが効果的です。

業務を行う際の注意点

業務中に発生する予期せぬトラブルや環境変化に柔軟に対応する仕組みを整備しましょう。

 

自己評価

一定期間の業務が終わった後、従業員自身が目標達成度を振り返る自己評価を行います。 
従業員に自らの成果や課題を振り返る機会を設けましょう。

自己評価のポイント

成果を具体的なデータや事例をもとに記述します。
成果だけでなく、プロセスや取り組み姿勢についても評価しましょう。

自己評価の注意点

自己評価が曖昧だと、上司評価とのギャップが生じやすくなります。

 

上長評価

自己評価が完了した後、直属の上司が従業員の業務内容や成果を基に評価を行います。 
この評価が最終的な評価スコアに反映されます。

上長評価のポイント

客観性を保つために、評価基準に沿った具体的な根拠を記載します。 主観的な判断を避け、データや事実に基づく評価を行いましょう。

上長評価の注意点

上司による評価のばらつきを防ぐため、評価者研修を実施すると効果的です。

 

フィードバック

最後に、評価結果を従業員にフィードバックします。 
フィードバックでは、評価内容を正確に伝えるだけでなく、今後の成長や改善のためのアドバイスも行いましょう。

フィードバックのポイント

フィードバックは対話形式で行い、従業員が納得するまで十分な時間を確保します。 評価結果だけでなく、今後のキャリア目標やスキルアップ計画についても話し合うことが大切です。

フィードバックの注意点

一方的な評価の押し付けにならないよう、従業員の意見や感想をしっかりと聞きましょう。

人事評価制度運用の注意点

人事評価制度を成功させるためには、設計だけでなく、運用段階での配慮も不可欠です。 制度を適正に機能させるには、長期的な視野を持ち、流行に左右されず、自社の状況に合った運用方法を採用する必要があります。

以下で、人事評価制度運用における注意点を解説します。

 

長期的な目線を持って取り組むようにする

人事評価制度は、一度導入したら終わりではありません。短期的な成果だけを求めず、従業員の成長や組織全体の発展を見据えた運用が大切です。

具体例

  • 毎期の評価結果を基に、次期の目標設定やスキル開発計画を立案する。
  • 年間や複数年単位での人材育成計画と連動させる。

長期的な目線を持って取り組む際の注意点

評価制度の成果が現れるには時間がかかるため、短期間での結論付けは避けましょう。
長期的な視野を持つことで、制度そのものの継続的な改善が可能になります。

 

流行に惑わされずに自社に必要な制度を採用する

他社で導入されている制度や市場のトレンドをそのまま模倣するのではなく、自社の業務内容や組織文化に合った評価方法を選択することが重要です。

具体例

  • 営業部門には業績連動型評価を、研究開発部門にはプロセス重視の評価を適用するなど、部門ごとに適切な制度を採用する。

流行に惑わされずに自社に必要な制度を採用する際の注意点

自社の規模やリソースに見合わない制度は運用が難しく、逆効果になる可能性があります。
必要に応じて外部専門家のアドバイスを受け、最適な制度を構築しましょう。

 

ルールに則った処遇を行う

評価制度の信頼性を保つためには、評価結果に基づく処遇を一貫して行うことが不可欠です。不透明な処遇や評価基準とのズレは、従業員の不満や信頼の喪失を招きます。

具体例

  • 評価スコアに応じて昇給や昇格を決定する際、評価基準に忠実であることを従業員に説明する。

ルールに則った処遇を行う際の注意点

評価結果を反映した処遇の一貫性がなければ、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。処遇のルールを明文化し、評価者全員に徹底しましょう。

運用をレベルアップさせるためのポイント

最後に、運用をレベルアップさせるための具体的なポイントを解説します。 
 

評価者研修を行う

評価者のスキル不足が制度運用の大きな障壁となることがあります。
そこで、評価者研修を実施し、適切な評価方法やフィードバックスキルを習得させることで、評価の一貫性と公平性を向上させることができます。

評価者研修の内容例

  • 評価基準に基づく客観的な判断方法。
  • 主観を排除するためのチェックリスト活用方法。
  • フィードバック時のコミュニケーションスキル。

メリット

評価の質が向上し、従業員の信頼感を得られます。
また、評価者自身の負担軽減と業務効率化につながります。
 

フィードバックのフレームワークを用いる

フィードバックは、評価制度を成功に導く鍵となります。
従業員が納得感を得られる、具体的かつ効果的なフィードバックを行うために、フレームワークの活用が有効です。

フレームワークの例を以下にご紹介します。

SBI型

SBI(Situation-Behavior-Impact)型とは、具体的な状況、行動、その行動がもたらした影響を明確に伝えるフィードバック方法です。

■SBI型の実施手順

  1. Situation(状況)…発生した状況を説明する。
    例:「先週のプロジェクトミーティングで…」
  2. Behavior(行動)…従業員の具体的な行動を指摘する。
    例:「あなたがデータ分析結果を迅速に共有したことで…」
  3. Impact(影響)…その行動がチームや業績に与えた影響を説明する。
    例:「チーム全体の意思決定がスムーズに進みました。」

■SBI型のメリット

具体的で客観性が高く、従業員が納得しやすい点がSBI型の最大のメリットです。

サンドイッチ型

サンドイッチ型とは、改善点を肯定的なフィードバックで挟み込んだ方法で、従業員に安心感を与えつつ、改善を促せます。

■サンドイッチ型の実施手順

  1. 良かった点を具体的に褒める。
    例:「今回のプレゼン資料は非常にわかりやすく、クライアントからも高評価でした。」
  2. 改善が必要な点を指摘する。
    例:「ただ、タイムマネジメントの面で少し課題が見えました。」
  3. 改善後の期待を述べる。
    例:「次回は、さらに効率的に進められるといいですね。」

■サンドイッチ型のメリット

心理的な抵抗を和らげつつ、改善点を伝えられる点がサンドイッチ型のメリットです。

ペンドルトン型

ペンドルトン型とは、対話型のフィードバック手法で、従業員の主体性を引き出します。 最初に良かった点、次に課題や改善すべき点について対話します。

■ペンドルトン型の実施手順

  1. 良かった点を従業員に自己評価させる。
    例:「今回のプロジェクトで、うまくいったと感じた部分はどこですか?」
  2. 上司が良い点を補足する。
    例:「そうですね。特に〇〇の対応が素晴らしかったです。」
  3. 改善点を従業員に考えさせる。
    例:「改善が必要だと思う点はどこでしょうか?」
  4. 改善点を具体的にアドバイスする。
    例:「次回は△△を意識して取り組むとさらに良くなりますよ。」

■ペンドルトン型のメリット

従業員から課題を引き出すため、主体的に自己改善を考えるきっかけを提供できる点がペンドルトン型のメリットです。

まとめ

従業員の成長を支え、組織全体の生産性向上を実現するためにも、人事評価制度を適切に運用することが大切です。

しかし、不透明な評価基準やフィードバック不足といった課題が残されたままでは、その効果を十分に発揮できません。
人事評価制度の運用を改善するには、現在の課題を正確に把握し、従業員と組織の両方にメリットのある方法を採用することが重要です。

また、評価制度の運用プロセスは一度きりではなく、継続的な改善を通じて、より実効性の高い仕組みに進化させる必要があります。さらに、評価結果をキャリア形成やスキルアップ、報酬制度と連動させることで、従業員の納得感やモチベーションを高めることが可能です。 

人事評価制度は、組織の成長を支える重要な基盤です。この記事を参考に、自社の評価制度を見直し、運用の質を高めてさらなる成長をめざしてください。長期的視野で制度を育てることが、企業の持続的な成功につながるでしょう。

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