製造業の人手不足は「採用」では解決しない? 定着率と生産性を高める人事戦略の進め方

  • 評価制度
  • 生産性向上

製造業における人手不足は、単なる人口減少だけでなく、若者の価値観の変化と旧来の労働環境や評価制度とのミスマッチが引き起こす深刻な課題です。この状況を放置すれば、技術承継の断絶や従業員の疲弊を招き、企業の競争力低下に直結しかねません。 
本記事では、製造業が人手不足に陥る根本的な原因と放置するリスクを整理した上で、「選ばれる企業」になるための人事制度の見直し方や、少数精鋭で生産性を高める現場づくり、人材定着を促すマネジメントのあり方まで具体的に解説します。課題を本質的に解決し、持続可能な組織を創るためのヒントとしてぜひお役立てください。 

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    生産性最大化・社員定着を実現する
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    • よくあるお悩みを解決する人事制度設計プロセス
    • 「制度を作って終わり」にしない定着支援
    • 【事例】専門人材育成・若手中堅の能力開発を重視した育成体系構築

製造業で深刻な人手不足が続く原因とは?

製造業において人手不足が慢性化している背景には、単純に「若者の人口が減少している」という人口動態の問題だけでなく、働く側の価値観の変化に業界の構造が追いつけていないという大きなズレが存在します。かつての「働けば働くほど豊かになれる」という考え方が通用しなくなった今、若い世代が仕事を選ぶ基準は大きく変わりました。なぜ製造業が選ばれにくいのか、原因となっている仕組みの問題を3つの視点から整理して考えていきます。

課題のカテゴリ現場のリアルな現状若者が抱くネガティブな印象
経済的報酬とQOL拘束時間や肉体的負荷が強い賃金と生活の質のコスパが悪い
自己成長ルーチンワークの固定化スキルが身につかないまま年を取ることが不安である
業務の透明性熟練工の「勘」への依存仕事がブラックボックスで習得が困難

「生活の質」を重視する若年層と、旧来の賃金体系とのミスマッチ

今の若い世代は、仕事だけに打ち込むのではなく、趣味や休息といったQOL(生活の質)をとても大切に考えています。対して、多くの製造現場では、身体的な負担や環境の厳しさに見合う手当が十分ではなく、情報通信業や金融業など多くのオフィスワーク系業種と比べて給与水準が低い傾向にあるのが現実です。たとえば、空調の効かない過酷な環境での立ち仕事が、快適なオフィスでの事務作業と同じ初任給である場合、タイパ(タイムパフォーマンス)を意識する若者は自然と後者を選ぶようになります。やりがい、または仕事の達成感という言葉だけで肉体的・精神的負荷を埋め合わせようとする考え方は、今の時代には受け入れられにくくなっているのです。働く環境の厳しさに合わせて給与の仕組みを見直さない限り、人材獲得はますます難しくなっていくでしょう。

参考:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査の概況」

将来のキャリアが見えにくい

将来のキャリアパスが明確に示されていないことも、若手従業員が定着しない原因の一つと考えられます。製造現場では、目の前の生産ラインを回すことが優先され、個人のスキルアップや中長期的な育成が後回しにされる状況も珍しくないでしょう。自分が数年後にどのような技術者になれるのかがイメージできなければ、モチベーションを維持するのは難しい可能性があります。たとえば、入社から3年経っても毎日同じ部品の検品作業だけを任され、新しい機械の操作やリーダーとしてのマネジメントを学ぶ機会が与えられない状況など、成長の実感を得られない環境が、若手の離職を引き起こしてしまうのです。

「ベテランの脳内」に依存したブラックボックス化による現場の限界

製造業の現場で滞りを生む原因は、業務が特定の熟練工にしかわからない「ブラックボックス化」です。「技は見て盗む」という旧来の職人気質な教育スタイルは、効率よく学びたいと考える今の若い世代には受け入れられにくいものになっています。作業の手順が共通の資料としてまとめられず、ベテランの経験や感覚だけに頼っている職場では、新人は何をどのように学べばよいのかがわからず、疎外感を感じてしまうでしょう。また、特定の人がいなければラインが止まるような状況は、周囲の従業員に過度なプレッシャーを与え、心理的な安全性も損なう可能性があります。業務の標準化やデジタル化を進め、誰もが安定して成果を出せる風通しのよい現場を作らなければ、組織として活動を続けていくことは難しくなっていくでしょう。

人手不足が招く製造業の企業のリスク

「今はなんとか現場が回っている」と人手不足の根本的な解決を先送りすると、企業にとって大きなリスクをもたらす可能性があります。ここでは、問題の放置がどのように危機を生むのかを詳しく解説します。

熟練の技術承継が途絶える可能性がある

若い世代が職場に定着せず人手が足りない状態が続くと、企業の力となる熟練の技術を次世代へ伝えていくことが難しくなります。長い間現場を支えてきた熟練の技術者が退職を迎えるときに、会社が積み上げてきた独自の知識や経験は失われ、製品の質を保つ上で大きな問題となってしまうのです。計画的な人材育成を行わなければ、企業の強みを維持することが困難になります。

残された従業員が疲弊して辞めてしまう可能性がある

人手が足りない状態で以前と同じ生産量を保とうとすれば、今働いている人の負担が増えていき、心身の疲労が蓄積し最終的に離職に至るリスクが高まります。少ない人数で多くの作業をこなすために長い時間働くことが当たり前になると、体力的にも精神的にも限界を感じる人が現れるはずです。これにより、離職が離職を呼ぶ負の連鎖の引き金となる可能性が非常に高くなります。一部の優秀な従業員に無理を強いる体制は長くは続かないため、従業員の健康と意欲を守るために、労働環境を適切な状態に整えることが、いま、早期の対応が求められる重要な課題となっています。

生産性低下で他社との競争力に悪影響を及ぼす可能性がある

慢性的な人手不足の状態が続くと、最終的には製品を作る力が弱まり、約束した納期を遵守できなくなる可能性があります。取引先からの注文に応えられなければ、他社への契約切り替えが発生するおそれがあります。製造業において、納期の遅延は顧客の信頼を根本から覆す重大な問題となります。安定した生産体制の維持が、企業の存続と成長の土台となるのです。

選ばれる製造業になるための人事制度の整え方

人手不足の危機を乗り越えるためには、求人を出せば自然と人が集まるという成功体験を見直す必要があります。その要となるのが、従業員の価値を最大化する人事制度のアップデートです。ここでは、選ばれる製造業になるための人事制度の具体的な方針について整理していきます。

従来型の人事制度選ばれるための人事制度期待できる組織への効果
曖昧な評価と年功序列専門スキルの明確な可視化と定義めざしたいキャリアの道筋が明確になる
勤続年数にもとづく給与体系スキル習得と連動した報酬制度若手や中堅の成長意欲が向上する
画一的で硬直化した労働条件個人の事情に合わせた柔軟な働き方多様な人材の確保と離職率の低下

ポイント1:専門スキルを可視化する

従業員の意欲を引き出すためには、現場で必要とされる専門スキルを細分化し、誰もが確認できる形に整える必要があります。どのような技術を身につければ一人前と認められるのかが言語化されていれば、従業員は日々の業務の中で自分の成長を実感しやすくなるでしょう。曖昧だった評価基準の透明化が、組織の活性化につながるはずです。具体的には、機械の操作能力やトラブル対応の知識などをレベル1からレベル5までの段階にわけ、社内のスキルマップとして一覧化する取組みがおすすめです。客観的な基準は、公平な評価の土台となります。

ポイント2:スキル習得を給与に還元する

可視化したスキルをただ評価するだけでなく、実際の給与や待遇に直接結びつける仕組みを整えましょう。新しい技術を習得し、対応できる業務の幅が広がった従業員に対して手当を支給したり基本給を上げたりして、頑張りが正当に報われる環境に整えます。たとえば、複数の生産ラインを一人で担当できる多能工の認定を受けた従業員に対し、毎月数万円の特別手当を支給する制度が考えられます。努力が金銭的な報酬として可視化されることで、さらなるスキルアップへの好循環が生まれるはずです。

ポイント3:柔軟な働き方を実現する

製造業という、多様な職種の人材が集まる業種であっても、時代のニーズに合わせた柔軟な働き方を取入れましょう。育児や介護といった個人のライフステージの変化に対応できる制度があれば、経験豊富な従業員の離職を防げるはずです。ワークライフバランスの充実は、現代の企業選びの重要な基準となっています。具体的には、ライン作業の時間を細かく区切り、短時間勤務やフレックスタイム制を導入して、子育て中の従業員でも無理なく働けるシフトを組むような取組みがおすすめです。柔軟な制度設計は、労働力不足を補う手段となります。

生産性向上で少数精鋭の現場を実現する方法

新たな人材の確保が難しい現状において、今いるメンバーで利益を出し続けるためには、徹底した生産性の向上が必要です。属人的な作業を見直し、誰もが複数の業務をこなせる体制を作ることで、現場の柔軟性は高まります。ここでは、効率性と実行力を兼ね備えた現場を作るための具体的なステップを解説します。

生産性向上のステップ現場で実施する具体的なアクション組織にもたらす効果
1.業務の棚卸し全工程を可視化し、非付加価値作業を捨てる隠れたロスが消え、真に必要な作業が明確化
2.判断のデジタル化熟練工の「勘」をロジック化・システム化属人化が解消され、未経験者でも戦力に
3.スキルの底上げ基礎技能の習得と改善マインドの醸成現場自走力が向上し、トラブル対応が迅速化
4.リアルタイム管理スキルマップの動的運用と多能工化状況に応じた最適な人員配置が可能に

手順1:業務プロセスの棚卸しと「付加価値を生まない作業」の徹底排除

少数精鋭の体制を作るためには、現場に隠れている「付加価値を生まない作業の時間」を見つけ出し、取除く必要があります。どれほど懸命に働いていても、その内容が探し物、必要以上の記録といった作業であれば、直接的な利益に結びつく可能性は低いです。具体的には、作業員の一日の動きを分単位でサンプリングし、部品の運搬や手書き報告書の作成といった「非付加価値作業」の割合を算出します。この結果をもとにして、作業をする場所の配置を見直したり、不要な事務作業をなくしたりする取組みを進めます。客観的な数字によってやめるべき作業を明確にすることが、効率化を進めるための出発点になります。

手順2:非効率な作業を自動化する

業務の可視化によって判明した無駄な作業や、単純な繰り返し業務は、ITツールやシステムを導入して自動化を進めましょう。人間がやらなくてもよい作業を機械に任せることで、限られた人員をより高度で付加価値の高い業務へ配置することが可能になります。紙の帳票に手書きで記入していた在庫管理の記録を、タブレット端末とバーコードリーダーを使ったデジタルシステムに置き換えるアプローチなどが該当します。アナログな作業から生じる時間のロスや転記ミスも減少する効果が期待できます。小規模なデジタル化からはじめるだけでも、現場の生産性は大きく改善するはずです。

手順3:従業員のスキルを全般的に向上させる

自動化と並行して進めたいのが、一人の従業員が複数の工程を担当できるようになる多能工化の推進です。特定の担当者だけができる作業をなくし、誰かが休んでも別のメンバーがすぐに対応できる体制を構築しましょう。たとえば、組立工程の担当者に検査工程の作業手順を覚えてもらい、曜日によって担当を入れ替えることで、両方の業務を経験できる環境などがおすすめです。業務の幅を広げると、従業員は工場全体の流れを理解できるようになります。多能工化は、会社にとっての効率化だけでなく、従業員にとっても「自社以外でも通用する市場価値の高い技術者になれる」という強い動機付けになります。単に作業を増やすのではなく、キャリアの幅を広げる施策として位置づけましょう。

手順4:スキルマップの運用で個々の能力を可視化する

多能工化を計画的に進めるためには、誰がどの工程の作業を行えるのかを一目で把握できるスキルマップの導入と運用が必要です。一人ひとりの習熟度が目に見えるようになれば、次にどのような教育を行えばよいかが明確になります。そして、このスキルマップを先述した人事制度の評価基準と結び付けましょう。仕組みを作って終わりにせず、継続的に運用することが定着と成長の鍵となります。

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    スキル管理の具体手法をご紹介!

    • スキル管理の具体的な3つの手法
    • スキル管理に適した項目と成功のポイント

    など、スキル管理を成果につなげるポイントご紹介します。

製造業の現場をアップデートするマネジメントの在り方

人事制度の刷新やDXの導入といった改革を定着させるためには、現場を巻き込むマネジメントが必要です。どんなに優れた仕組みを作っても、現場の人たちの理解と協力が得られなければ十分に機能しません。ここでは、組織風土づくりとマネジメントのポイントを解説します。

経営層が「めざしたいゴール」をわかりやすく示す

新しい人事制度やシステムを現場に導入する際、一方的に押し付けるだけでは反発を招く恐れがあります。なぜ今この変革が必要なのか、それが従業員の将来にどうプラスになるのかを、経営陣が自らの言葉で直接伝える必要があります。目的を理解し、納得してもらうことで現場の従業員たちは同じ方向を向いて取組むことができるのです。たとえば、評価制度の変更前に社長自らが各工場を回り、「皆さんの技術を正しく評価し、還元するための仕組みです」と対話集会を開くようなアプローチがおすすめです。丁寧なコミュニケーションが、改革への推進力を生み出します。

指導係が正当に評価される「仕組み」を作る

若手の育成や多能工化を進める上での懸念点は、自分の仕事で手一杯になっているベテラン従業員の存在です。若手の育成にメリットを感じられるよう、指導力やノウハウの共有そのものを人事評価の対象に加える必要があります。教え上手な従業員が正当に評価される仕組みを整えましょう。具体的には、「部下のスキルマップのレベルアップ」を指導者の評価指標(KPI)に組み込む、あるいは「後進育成手当」を新設するといった、目に見える還元が必要です。また、個人の成果だけでなく、チームの底上げに貢献した行動も評価するのがおすすめです。指導が正当に評価されれば、ベテランは自発的にノウハウを伝えてくれるようになるでしょう。

心理的安全性の高い職場環境を作る

改革を進める過程では、新しいやり方に戸惑ったり、慣れない作業でミスが発生したりすることもあります。その際、失敗を責めるのではなく、挑戦したことを評価し、改善策を一緒に考える心理的安全性の高い職場を作ることが求められます。意見を言いやすい環境が、自発的な改善活動を生み出すのです。失敗を学びの機会に変えることで、従業員は萎縮せずに新しいことへ挑戦し続けられます。

プロが人事制度から育成設計まで伴走「人事制度設計・育成体系構築」

製造業における人手不足の深刻化は、採用難だけが原因ではありません。せっかく採用した人材が定着しない、評価制度への不満からモチベーションが下がる、キャリアの展望が見えずに離職するといった、人事制度に起因する問題が大きく影響しています。人手不足を本質的に解決するには、制度そのものの見直しが必要なのです。

そこで活用したいのが、NTTグループで30年以上にわたり人事制度・施策の企画設計と運用を担ってきたNTT ExCパートナーの専門家による支援サービスです。労働関係法令の改正対応が十分でない企業さまも安心して相談できます。課題分析から制度設計、導入・運用・定着まで、すべてのフェーズを一気通貫でサポートするため、社内にノウハウがなくても着実に改革を進められます。

これまでに手がけた人事制度の抜本的な改革は約250件。豊富な実績に裏打ちされた支援だからこそ、製造業特有の現場課題にも的確に対応できます。また、制度導入後も評価者研修やマニュアル整備まで伴走し、「作って終わり」にならない徹底した定着支援を提供します。

人事制度と人材育成を連動させた仕組みを構築することで、従業員の成長と事業戦略の実現を同時に支援。人材が定着し、現場で活躍し続ける環境を整えることこそが、製造業の慢性的な人手不足を解消する根本的なアプローチとなるでしょう。

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製造業の人手不足を解消する人事戦略まとめ

この記事のポイントをまとめます。

  • 古い賃金体系を見直し、専門スキルを可視化して評価に連動させる人事制度を構築する
  • 業務の自動化と従業員の多能工化を進め、少人数でも対応できる柔軟な現場とキャリアの幅を広げる取組みにつなげる
  • 現場のベテランによる若手育成を評価するとともに、失敗を許容する心理的安全性の高い組織風土を醸成する

人手不足の課題は、採用活動の強化だけでは根本的に解決しません。従業員が一生もののスキルを身につけ、やりがいを持って働ける組織へとアップデートすることが、持続可能な製造業の未来を創るための確実な一歩となります。

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