賞与制度の設計方法についてわかりやすく解説

  • 評価制度
  • 給与制度

賞与制度は従業員のモチベーションを高め、優秀な人材を確保・定着させるための重要な仕組みの一つです。
一方で、適切な制度設計を行わなければ、不公平感の発生やコスト増加につながるリスクもあります。
そのため、自社の経営戦略や組織文化に合った賞与制度を構築することが欠かせません。

そこでこの記事では、賞与制度の設計に関する基本から具体的な方法までを解説します。

賞与(ボーナス)とは

賞与(ボーナス)とは、企業が従業員に対して、給与とは別に支給する報酬の一種です。
年に数回一定のタイミングで支給されるケースが一般的です。

多くの企業では、慣例的に支給が行われる一方、業績や従業員の成果、会社全体の経営状況などによって調整が可能な制度として柔軟に運用されています。

従業員にとっては、生活の安定やボーナス的な臨時収入として嬉しい存在であり、企業側にとっても、従業員のモチベーション向上や、優秀な人材の確保・定着をめざすための重要な制度です。

賞与(ボーナス)の定義

賞与は給与とは異なる報酬として支給されるものですが、国税庁はその基準を以下のように示しています。

賞与の意義

賞与とは、定期の給与とは別に支払われる給与等で、賞与、ボーナス、夏期手当、年末手当、期末手当等の名目で支給されるものその他これらに類するものをいいます。なお、給与等が賞与の性質を有するかどうか明らかでない場合、次のようなものは賞与に該当するものとされます。

  1. (1) 純益を基準として支給されるもの
  2. (2) あらかじめ支給額または支給基準の定めのないもの
  3. (3) あらかじめ支給期の定めのないもの。ただし、雇用契約そのものが臨時である場合のものを除きます。
  4. (4) 法人税法第34条第1項第2号≪事前確定届出給与≫に規定する給与(他に定期の給与を受けていない者に対して継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づき支給されるものを除きます。)
  5. (5) 法人税法第34条第1項第3号に規定する業績連動給与
    引用:国税庁「No.2523 賞与に対する源泉徴収」

賞与と似た報酬との違い

賞与は給与や寸志と混同されることがありますが、それぞれに異なる特徴があります。以下に、その違いを詳しく説明します。

給与との違い

給与は、従業員が労働の対価として定期的に受け取る基本報酬を指します。一方、賞与は、企業の業績や従業員の成果に応じて支給される、定期または臨時の報酬です。

給与が定期的に支給され、支給額が事前に定められている報酬なのに対し、賞与は成果を評価した特別な報酬であり、支給額は柔軟に設定されます。これにより、賞与は従業員のモチベーションを高める役割を果たします。このように、賞与と給与は性質や目的において異なる点が多いといえます。

寸志との違い

寸志とは、感謝の気持ちを表すために支給される報酬です。法律上では賞与とみなされる場合がありますが、一般的には賞与よりも支給額が少ない点が特徴です。

賞与が企業の業績や従業員の成果を基準に計算され、モチベーション向上や生活の安定を目的とするのに対し、寸志は特定のイベントや節目において感謝の気持ちとして渡されることが多いです。

例えば、入社1年目の従業員に対して賞与の代わりに寸志が支給されることがあります。また、企業の懇親会や親睦会などで、上司から部下に「費用の足しに」と渡されるケースもあり、賞与とは異なる柔軟な用途が見られます。

賞与の支給義務

賞与の支払いについて、法的には義務付けられていません。したがって、「賞与を支給するか」「支給基準や対象者をどうするか」などは、企業が独自に定めることが可能です。

ただし、就業規則や労働契約、労働協約で賞与の支給条件を明記している場合、企業にはその基準に従い賞与を支給する義務が発生します。この場合、業績不振を理由に一方的に賞与を減額したり、不支給としたりすることは違法と判断されるリスクがあります。

就業規則などの文言に「会社の業績によってはこの限りでない」などと記載されている場合は、業績不振時に賞与を支給しなくても問題ないケースが多いです。

しかし、過去に継続的に賞与を支給している場合、従業員がそれを当然の権利と期待している可能性があります。この場合、支給を見送る際には、従業員に十分な説明を行うことが求められます。

賞与(ボーナス)の支給対象者

賞与(ボーナス)は、企業が従業員に対して支給する特別な給与であり、その支給対象者は企業の就業規則や労働契約によって定められます。以下では、一般的な支給対象者について解説します。

正社員

多くの企業では、正社員を賞与の主な支給対象者としています。正社員は企業の中核を担う存在であり、その貢献度に応じて賞与が支給されるケースが一般的です。

契約社員・派遣社員・パートタイム・アルバイト

契約社員や派遣社員、パートタイム、アルバイトに対する賞与の支給は、企業の方針や契約内容によって異なります。一部の企業では、これらの従業員にも賞与を支給する場合がありますが、支給しない企業も存在します。

支給する場合でも、勤務時間や勤務日数に応じて支給額が調整されることが一般的です。これらの労働者に対する賞与の有無や計算方法を明確に定め、就業規則や労働契約書に明確な記載することが重要です。

支給日在籍要件

賞与の支給対象者を決定する際、支給日時点で在籍している従業員に限定する「支給日在籍要件」を設ける企業があります。これにより、支給日前に退職した従業員には賞与を支給しないとする取り決めです。ただし、この要件を適用する際には、労働者に対する十分な周知と就業規則への明記が必要です。

賞与(ボーナス)の支給時期

賞与(ボーナス)は企業が従業員に対して支給する特別な報酬であり、その支給時期は企業や業種によって異なります。以下では、一般的な支給時期について解説します。

夏季賞与の支給時期

多くの企業では、夏季賞与を6月下旬から7月上旬にかけて支給しています。具体的な支給日は企業ごとに異なりますが、7月初旬に支給されることが多い傾向があります。

冬季賞与の支給時期

冬季賞与は、12月上旬から中旬にかけて支給されるのが一般的です。多くの企業では、12月10日から15日の間に支給日を設定しているケースが見られます。

企業規模や業種による違い

企業の規模や業種によって、賞与の支給時期や回数は異なる場合があります。例えば、冬季賞与が12月下旬や1月に支給されるケースもあります。また、業績や経営方針に応じて、年1回の場合や年3回以上支給する企業も存在します。

決算賞与の支給時期

通常の夏季・冬季賞与とは別に、企業の業績や決算内容に応じて支給される「決算賞与」があります。決算月の翌月末までに支給されることが多く、例えば3月決算の企業では4月末までに支給されるケースが一般的です。

賞与支給のメリット

賞与の支給は、従業員と企業、双方に多くのメリットをもたらします。
以下で、具体的なメリットをご紹介します。
 

従業員のモチベーション向上

賞与は、努力や成果が直接的に報酬として評価される仕組みです。個人の業績や成果が反映される賞与制度は、モチベーションを高め、従業員の目標達成意欲を引き出す効果があります。
 

優秀な人材の確保と定着

魅力的な賞与制度があれば、優秀な人材を引きつけ、企業に留まらせることが可能です。
市場競争が激しい中、賞与制度が充実している企業は、採用活動において有利なポジションを確立できるでしょう。
 

企業全体の目標達成を促進

賞与を業績や成果に連動させることで、従業員一人ひとりが企業全体の目標を意識して行動するようになります。
個人目標と組織目標を一致させることで、企業の一体感が高まり、チーム全体で目標達成をめざす文化が醸成されます。
 

生産性向上と効率化

成果に応じた賞与制度があれば、従業員が自身のパフォーマンスを意識して業務を進めるように促すこともできます。
この結果、無駄の削減や効率的な働き方が実現し、全体的な生産性向上が期待できます。
 

組織の競争力強化

賞与制度を通じて成果を公平に評価し、適切な報酬を提供することで、優秀な人材を確保・維持し、組織の活気や競争力を高める効果も期待できます。
従業員が成果を意識して取り組むことで、組織全体のパフォーマンスが向上し、企業の市場競争力を強化することにつながります。 
 

企業の社会的信用度向上

適切な賞与制度を運用している企業として知られることで、社会的に「従業員に対する配慮が行き届いている会社」として評価されます。
顧客や取引先からの信頼を高めることにもつながるでしょう。

賞与支給のデメリット

賞与制度は従業員のモチベーションを高め、企業の目標達成を支援する効果的な仕組みですが、設計や運用次第ではデメリットも発生します。

以下で、賞与支給に伴う主なデメリットをご紹介します。
 

コストの増加

賞与は、従業員の給与とは別に支給されるため、企業にとって大きな財務負担となります。
特に、業績が不安定な場合や想定外のコスト増加が発生した場合、賞与支給が経営の圧迫要因になる恐れがあります。
たとえば、景気後退や業績低迷時でも一律の賞与を支給する場合、企業の利益を圧迫するリスクがあります。

コストの増加への対策:

  • 業績に連動した変動型賞与制度を導入する。
  • 賞与の総額をあらかじめ予算化し、一定の範囲内で運用する。

 

不公平感の発生

賞与支給額が不透明な場合や、評価基準が明確でない場合、従業員間で不公平感が生じる可能性があります。
特に、個人の成果が評価に十分反映されていない場合、モチベーションの低下につながることがあります。

不公平感の発生への対策:

  • 明確な評価基準を設定し、賞与支給のルールを従業員に共有する。
  • 定量的な目標(売上達成率など)と定性的な評価(チーム貢献度など)を組み合わせる。

 

業績に依存するリスク

業績連動型の賞与制度では、会社の業績が悪化した場合に賞与額が大幅に減少することがあります。
この場合、従業員の不満が高まり、長期的には離職率の増加につながる可能性があります。

業績に依存するリスクへの対策:

  • 固定部分と変動部分を組み合わせたハイブリッド型賞与を導入する。
  • 会社の業績に左右されにくい特別報酬やインセンティブの仕組みを併用する。

 

長期的な動機付けに欠ける

賞与は短期的な成果を評価する傾向が強いため、長期的な成長やスキル向上を促進する手段としては十分でない場合があります。
特に、年功序列的な支給体系では、従業員が短期的な成果を過度に重視する可能性があります。

長期的な動機付けに欠ける場合の対策:

  • 賞与制度に長期目標を反映させる評価項目を追加する。
  • 人材育成やスキルアップを評価基準の一部に組み込む。

 

運用負担が大きい

賞与制度の設計や運用には、評価基準の設定や従業員への説明、支給額の計算など、多くの手間がかかります。
また、透明性を確保するためには、細かい管理と調整が必要です。

運用負担が大きいことへの対策:

  • 人事評価システムや給与管理ソフトを導入し、効率化を図る。
  • 専門家や外部コンサルタントの支援を活用する。

賞与(ボーナス)の決め方

賞与制度を効果的に運用するためには、明確な支給根拠と適切な種類を設定することが重要です。

以下で、賞与支給の基準や種類について解説します。
 

賞与(ボーナス)支給の根拠

賞与(ボーナス)は、企業の経営状況や従業員の成果に基づいて支給されるものです。
支給額を決定する際の根拠を明確にすることで、従業員の納得感を高め、不公平感を防ぐことが可能です。

ボーナス支給の根拠を、就業規則や労働協約、労働契約などに明確に記載しておきましょう。
 

賞与(ボーナス)の種類

賞与制度には、企業の戦略や従業員のモチベーション維持に合わせたさまざまな種類があります。
以下に、代表的な3つの賞与タイプを挙げます。

基本給連動型賞与

基本給連動型賞与とは、基本給をベースに計算される賞与で、従業員ごとの給与に一定の割合を掛けて支給額を算出します。

■基本給連動型賞与のメリット:

  • 計算がシンプルで従業員に理解されやすい。
  • 勤続年数や役職に応じた支給額が自然に反映される。

■基本給連動型賞与のデメリット:

  • 個人の成果を反映しにくい。
  • 業績に左右されないため、柔軟性が低い。

業績連動型賞与

業績連動型賞与とは、企業の業績に応じて支給額が変動するタイプの賞与です。
利益率や売上目標の達成度に基づいて支給額が決定されます。

■業績連動型賞与のメリット:

  • 会社の業績と連動するため、経営の健全性を保ちながら支給できる。
  • 従業員にとって、成果が報酬に反映される点がモチベーション向上につながる。

■業績連動型賞与のデメリット:

  • 業績が悪化すると賞与が減少し、従業員の不満が生じる可能性がある。

決算賞与

決算賞与とは、決算後の業績を基に、一時的に支給される賞与です。
特に、年間の利益が大きく出た場合に支給されることが多いです。

■決算賞与のメリット:

  • 臨時支給のため、経営の柔軟性を確保しやすい。
  • 従業員に会社の成功を還元する仕組みとして有効。

■決算賞与のデメリット:

  • 支給が不定期であるため、従業員にとって安定した収入として認識されにくい。

賞与制度設計の際の注意点

賞与制度を効果的に運用するには、単に仕組みを設計するだけでなく、適切な運用と継続的な見直しが欠かせません。

不公平感やトラブルを防ぐために、以下のポイントを押さえましょう。

限度を超える減額にならないようにする

賞与を業績や個人評価に基づいて調整する場合でも、過度な減額は従業員のモチベーション低下や離職を招く可能性があります。経営状況が厳しい場合でも、最低限の配慮が必要です。

■問題点:

  • 減額幅が大きいと、従業員の不満や不安を生む。
  • 長期的には企業文化への悪影響も考えられる。

■対策:

  • 賞与の最低支給額を設定する。
  • 減額の理由を明確に説明し、納得感を得る努力をする。
  • 業績連動型と固定額を組み合わせたハイブリッド型賞与制度を採用する。

制度や査定理由を明確に周知する

賞与制度の透明性が欠けていると、従業員の不満が高まりやすくなります。
どのような基準で賞与が支給されるのか、従業員に対してわかりやすく説明することが重要です。

■問題点:

  • 評価基準が不明瞭だと、不公平感や誤解を生む可能性がある。
  • 制度の理解が不十分な場合、従業員の期待値と現実のギャップが拡大する。

■対策:

  • 評価基準の共有…査定の基準やプロセスを文書化し、従業員に配布する。
  • コミュニケーションの強化…上司から部下へのフィードバックを定期的に実施する。
  • 説明会の開催…賞与制度の概要や変更点を説明する場を設け、疑問点を解消する。

制度内容の定期的な検証・見直しを行う

賞与制度は、時代や経営環境の変化に合わせて柔軟に対応する必要があります。
一度設計した制度をそのまま運用し続けると、企業の状況に合わなくなる可能性があります。

■問題点:

  • 経営方針や市場状況の変化に対応できない制度では、効果が薄れる。
  • 従業員のニーズや期待に応えられない場合、制度そのものが形骸化する。

■対策:

  • 定期的な検証…経営指標や従業員アンケートを活用して、現行制度の有効性を確認する。
  • 柔軟な変更…必要に応じて評価基準や支給基準を見直し、最新のニーズに対応する。
  • 専門家の活用…外部のコンサルタントを活用し、客観的な視点で制度をチェックする。

まとめ

賞与制度は、従業員のモチベーション向上や優秀な人材の確保・定着を実現するために欠かせない仕組みです。
ただし、適切な設計と運用が求められるため、企業の経営方針や組織文化に即した制度を構築する必要があります。

賞与制度を構築する際は、現在の経営課題や従業員のニーズを正確に把握したうえで設計を行うことが成功の鍵です。

企業の成長と従業員の満足度向上を両立するために、この記事を参考に賞与制度の見直しや導入を進めてみてください。持続的な成功をめざして、効果的な報酬戦略を実現しましょう。

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