賃金制度改革のポイント|メリット・注意点と流れ、よくある質問を解説

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従来の賃金の支払いルールを見直し、賃金制度の改革に取組む企業が多くなっています。賃金は従業員のモチベーションに深くかかわることから、自社の事業の特性を踏まえた賃金制度の見直しは、特に今後の成長を見据えた中小企業においては重要な経営課題といえるでしょう。

この記事では、賃金制度改革のポイントを解説します。賃金制度改革を実施するメリットや注意点、改革の流れ、よくある質問と回答までご紹介するので、ぜひ参考にしてください。

賃金制度改革の概要

賃金制度の改革とは、具体的には「企業が従業員への賃金の支払いルールを見直すこと」をさします。はじめに、賃金制度改革の重要性や改革のタイミングなど、基礎知識を解説します。

●賃金制度の改革が重要な理由

近年、グローバル競争の激化やデジタル化の進展などを背景に、ビジネスを取り巻く環境は大きな変化を遂げています。そのような中で、従業員の働き方や価値観は多様化しています。代表的な例として、「テレワークの普及」「副業を容認する企業の増加」「ワークライフバランスを重視する価値観の広まり」などが挙げられるでしょう。

こうした状況下において、従来の画一的で柔軟性の低い賃金制度が適さないケースも少なくありません。働き方と賃金制度のミスマッチは、従業員のエンゲージメント低下を招くおそれがあり、不満や離職率の上昇につながると懸念されています。企業側はこれらの課題を解決へ導くためにも、従業員の声をしっかりと聞き、ニーズや要望に適した賃金制度を検討することが大切です。

●賃金制度の改革を行うタイミング

  • 会社の運営に余裕があるとき
    賃金制度を改定するには、従業員の合意を得るまでに一定の時間がかかります。また、改定内容次第では、現状と賃金が大きく変わる従業員が出る可能性が考えられます。金銭的な補填や人員変更に備えて、会社の資金や時間に余裕があるタイミングで実施するのが望ましいでしょう。
  • 会社が決算を行うとき
    会社が決算を行うタイミングで賃金制度の改革に取組むと、決算期に合わせて施策による成果を反映させやすくなります。このタイミングで賃金制度の改革を行えば、人件費を管理しやすくなるでしょう。決算期の翌月の改定をめざして、計画的に取組みはじめましょう。
  • 組織に大きな変更があるとき
    事業を整理したり、組織再編による人員変更を行ったりするタイミングに合わせて賃金制度の改革に取組むのも一つの手です。組織の大きな変更にともない改革を行うことで、従業員の意識に変化をもたらす効果が期待できます。
  • 創業年数の区切りがよいとき
    創業から数十年となる周年記念のタイミングや、従業員数が一定以上に達するタイミングは、会社で祝典を行うケースが多くあるでしょう。会社にとって区切りがいいタイミングは、改革を行う際に従業員からの納得を得やすい傾向にあります。
  • 法律の改正があったとき
    「労働基準法」をはじめとした労働に関する法律の改正があったときは、現状の賃金制度を見直す必要があります。最新の法律に則った賃金制度となっているか確認し対応するとともに、賃金制度の改革に取組むとよいでしょう。

賃金制度の改革を行うメリット

賃金制度の改革は従業員にメリットをもたらすだけでなく、モチベーション向上や優秀な人材の確保など、企業側も多くのメリットを期待できます。ここでは、賃金制度の改革を行うメリットについて解説します。

●従業員のモチベーションが向上する

賃金制度の改革によって、従業員の要望を反映した公平性のある報酬体系を構築すると、従業員満足度の向上につながります。従業員間で生じている不公平感をなくし、会社への信頼度を高められる点がメリットです。

●優秀な人材の確保につながる

近年の労働市場は競争が激化し、優秀な人材の確保がますます困難となっています。そんな中で、働き手にとって魅力のある報酬体系を提示すると、優秀な人材から注目されやすくなり、人材の確保・維持が期待できるでしょう。その際は、賃金制度の改革によってスキルや業績に応じた昇給を行うことと併せて、明確なキャリアパスや成長機会を提供すると効果的です。

●チームワークが促進される

賃金制度の改革にともない、チームの目標達成に貢献した従業員へ報酬を与える仕組みを導入すると、チームワークの促進が期待できます。チーム全体のパフォーマンスやプロジェクトの成功にもとづいたインセンティブを設定することによって、メンバー間の協力関係が強化されます。このように貢献度を評価する仕組みによって、単なる個人間の競争が抑えられ、全員が共通の目標へ向かって協力する文化の醸成につながります。

●労働生産性の向上が期待できる

労働生産性とは、従業員1人あたりが生み出す付加価値額をさします。労働力によって効率的に価値が生み出されている場合、労働生産性が高い状態となります。賃金を適切に設定すると、従業員の意欲が高まりパフォーマンスの発揮が促され、労働生産性の向上が期待できます。結果として、企業はより高い価値を生み出すことが可能です。

賃金制度の改革を行う流れ

賃金制度の改革を行う場合は、以下の流れで仕組みを構築し、運用をはじめましょう。ここでは、賃金制度の改革を行う流れを4つのステップで解説します。

●Step1. 現状の課題を認識して改定方針を決定する

賃金制度の改革を成功へ導くためにも、まずは自社の状況を正確に把握することが重要です。現状の課題を確認するために、組織体制や人件費に関するデータを分析しましょう。その後、客観的な数値にもとづいて改善へ向けて改定方針を決めていきます。

●Step2. 役員と従業員にヒアリングを行う

現行の賃金制度について、役員と従業員へのヒアリングを実施します。経営層と現場の双方の意見を取り入れて制度に反映させることで、全社的に納得感を得られる改革をめざしましょう。役員に対しては、人件費管理の課題や今後の見通しに関してヒアリングします。また、従業員に対しては、現行の賃金制度や処遇に対する率直な意見やフィードバックを受けて、要望や不満を把握しましょう。

●Step3. 市場調査と同業種の賃金水準を比較する

賃金制度に関する市場調査を実施して、自社の賃金制度の客観的な評価を実施します。業界全体および同業他社の賃金水準のデータと照らし合わせて、今後の賃金制度の方向性を定めましょう。その際は、業界内における自社の立ち位置を意識したうえで差別化を図り、働き手にとって魅力を感じる賃金制度をめざすことが大切です。

●Step4. 新たな評価制度を構築し評価基準を明確化する

ここまでの分析・ヒアリング・市場調査の結果を踏まえて、新たな評価制度を構築します。その際は、従業員の仕事を適切に評価するために、人事評価の基準を明確にしましょう。体系的に整備された人事評価制度によって透明性が高まることで、従業員からの信頼感を高めやすくなります。長期的な視点に立ち、公正でモチベーションアップにつながる評価制度を構築できると理想的です。

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賃金制度の改革を行う際の注意点

賃金制度の改革は、法律上のルールに則り、かつ社内の公平性を保ち、適切に実施することが重要です。ここでは、賃金制度の改革を行う際の注意点をご紹介します。

●法令遵守とコンプライアンスを徹底する

従業員の報酬や待遇には法的な制約があるため、賃金制度の改革は労働に関する法律を遵守して行わなければなりません。万が一法律に違反すると罰則を受ける可能性があるほか、従業員との法的なトラブルや労働争議に発展するおそれがあります。たとえば、労働者を守るための法律「労働基準法」では、最低賃金や労働時間の制限、時間外労働に対する割増賃金などが定められています。

●コストを管理する・予算を確保する

賃金制度の改革は、多額の費用をともなう重大なプロジェクトとなります。新たな体制へ移行すると、一部または全部の従業員の人件費が増額となる点に留意しなければなりません。また、新しい賃金制度に合わせて就業規則や賃金規程を作成または改定する工数が発生します。得られる効果や発生するコストのシミュレーションを行い、費用対効果の高い改革をめざしましょう。

●従業員が納得できる公平性を保つ

賃金制度の改革は、従業員が納得できる公平性を保ったうえで実施することが必須です。仕事の責任の度合いや業務量に適した明確な基準を設定するとともに、昇格の条件や昇給額などを賃金表として従業員に共有することで、透明性を高めやすくなります。また、自社の事業の特性によっては、柔軟性の高い運用ができるよう複数の賃金制度を組み合わせるといった工夫をするとよいでしょう。

●役員・従業員の理解を得ながら慎重に進める

賃金制度の見直しのように、会社の仕組みを大きく変える場面では、役員や従業員の理解を得るのが難しいケースも少なくありません。全ての役員・従業員に納得してもらうためにも、「どのような理由があって見直しするのか」「見直しによってどんなメリットがあるのか」を丁寧に説明しましょう。社内の協力を得ることで改革をよりスムーズに進められるようになります。

賃金制度の改革を成功させるポイント

賃金制度の改革を成功させるために、人事部門ではどのように取組めばよいのでしょうか。ここでは、賃金制度の改革を成功へ導くために押さえておきたいポイントを解説します。

●賃金体系の特徴の正しい理解

一般的に企業の賃金体系には「年功給(年齢給)」「能力給」「役割給」「職務給」「成果給」といったさまざまな種類があります。どの賃金体系を採用するかは各企業にゆだねられているため、それぞれの特徴を理解したうえで、自社に適した賃金体系を採用しましょう。

種類給与が決まる要件
年功給(年齢給)従業員の年齢や勤続年数
能力給従業員のスキルや資格に応じた等級
役割給仕事の難易度や責任の重さ
職務給業務内容
成果給仕事の実績や評価

●ポジションにもとづく報酬の設定

社内の業務において、専門知識・経験・スキルなどが重視されるポジションがある場合は、ポジションに適した報酬の設定が成功のポイントとなります。場合によっては、同じ役職であっても管轄する業務によって報酬額を変える必要があるでしょう。担当者が納得できる報酬を設定することが大切です。

●パフォーマンスにもとづく報酬の設定

従業員個人またはチームが達成した成果にもとづいて報酬を支払う仕組みがあると、モチベーションアップを図りやすくなり、さらなるパフォーマンス向上が期待できます。また、特定の技能やノウハウなどの付加価値に対して手当を支給する仕組みは、社内のスキルの底上げに有効です。

●自社に合う賃金制度の選択

それぞれの賃金制度は、企業の業種・社内風土・特性によって相性が異なります。社会的にトレンドの制度や、ビジネスシーンで主流となっている制度だったとしても、必ずしも自社に適しているとは限りません。自社との相性を見極めて賃金制度を選択しましょう。

賃金制度の改革に関するよくある質問

ここでは、賃金制度の改革に関するよくある質問とその回答をご紹介します。自社の給与制度の見直しを検討している場合は、改めて制度の種類や注意点を確認しておきましょう。

●Q1. 賃金制度の主な種類は?

一般的に企業で採用される賃金制度には、主に以下のような種類があります。自社の事業の目的や方針に適した賃金制度の導入を検討するとよいでしょう。

種類特徴
固定給制度一定の時間にわたる勤務に対して、一定額の給与を支払う制度
能力給制度従業員の能力や技能に応じて給与を支払う制度
業績給制度企業の業績に応じて従業員の基本給を支払う制度
役割給制度従業員の職務における役割や責任に応じて給与を支払う制度
リワード制度従業員個人の成果に応じて賞与やインセンティブなどの報酬が上乗せされる制度

●Q2. 賃金制度の改革で注意すべき点は?

賃金制度の改革では、労働に関する法律を遵守し、コンプライアンスを徹底しましょう。法的なルールに則って賃金制度を見直すよう注意が必要です。また、制度改革にともなう人件費の増額や人員変更の可能性を踏まえて、慎重に取組むよう注意しましょう。

●Q3. 賃金制度を改革する際に従業員に納得してもらうには?

従業員の納得を得るためには、まず賃金制度を改革する目的やメリットを丁寧に説明することが大切です。事前にヒアリングを行い、従業員の意見を取り入れる姿勢が求められます。また、新たな賃金制度を構築する際は、明確な基準を設定して従業員に共有するなど工夫して、透明性を高めるとよいでしょう。

現行の制度を改善して納得感の高い賃金制度をめざしましょう!

ここまで、賃金制度の改革のポイントのほか、改革を実施するメリットや注意点、改革の流れなどを解説しました。現行の制度を見直して、自社に適した新たな制度を構築し、スムーズな移行をめざしましょう。その際は、役員や従業員へヒアリングや丁寧な説明を行い、全社的に納得を得たうえで改革を進めることが大切です。会社の運営に余裕があるタイミングを見計らって、計画的に準備を進めましょう。

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