報酬制度の設計のポイントについてわかりやすく解説

  • 給与制度

報酬制度の設計は、従業員のモチベーション向上や優秀な人材の確保・定着に直結する重要な経営課題だといえます。
企業規模や業種などにより最適な設計方法は異なり、適切な制度を導入しなければ、不公平感の発生やコスト増加につながるリスクもあります。

そこでこの記事では、報酬制度を設計する目的や種類、具体的な進め方、ポイントについて解説します。

報酬制度とは

報酬制度とは、企業が従業員に対して提供する報酬の仕組みのことです。
給与やボーナス、インセンティブなどの金銭的な報酬だけでなく、福利厚生や働きやすい環境の提供など、非金銭的な報酬も含みます。

報酬制度は、以下の4つの主義のいずれかに基づいて設計されることが一般的です。

  • 年功主義
  • 職能資格主義
  • 職務等級主義
  • 成果主義

報酬制度は従業員のパフォーマンスに直結し、企業の成長を支える重要な要因となります。
適切に設計された制度であれば、従業員のやる気を高めるだけでなく、優秀な人材の採用や定着にもつながります。
逆に不適切な制度であれば、離職率の上昇や生産性の低下を招く恐れがあります。 

賃金制度との違い

報酬制度と賃金制度は、いずれも従業員に対する金銭的な待遇に関する制度ですが、その目的や構造には明確な違いがあります。それぞれを正しく理解することで、適切な制度の設計と運用が可能になります。
 

賃金制度とは

賃金制度は、給与に特化した制度を指し、基本給や手当など、労働の対価として支払われる部分を中心に構築されます。賃金制度の主な目的は「生活を支えるための安定的な報酬の提供」であり、一般的に以下の要素が基準として設けられます。

  • 職務内容や責任の範囲
  • 勤続年数や職能資格
  • 業界や地域ごとの相場

賃金制度は報酬制度の一部に含まれますが、より直接的で日常的な労働の対価としての側面が強い制度と言えます。
 

主な違い

報酬制度と賃金制度の違いは、主に以下の3点に集約されます。

  1. 範囲の広さ
    賃金制度は給与に限定される一方で、報酬制度はインセンティブや福利厚生、キャリア支援なども含む包括的な仕組みです。
  2. 目的
    賃金制度は安定性を重視し、基本的な生活を支える目的があります。一方、報酬制度は従業員のモチベーションを高め、組織の目標達成を支援する役割があります。
  3. 設計の方向性
    賃金制度は「内部公平性」や「外部公平性」に基づき、明確な基準の下で構築されます。報酬制度はこれに加えて、従業員の成果やスキルに基づく変動要素が含まれるため、柔軟性や戦略性が求められます。

 

賃金制度と報酬制度の組み合わせの重要性

企業が持続的な成長を実現するためには、賃金制度と報酬制度を適切に組み合わせることが重要です。基本給や手当といった安定した報酬を提供しつつ、インセンティブやキャリア開発支援を通じて従業員の意欲を引き出すことが求められます。

また、定期的に制度を見直し、経済状況や業界動向に応じて最適化を図ることで、従業員満足度を維持し、優秀な人材を確保できる仕組みが構築されます。

報酬制度の目的と役割とは

適切な報酬制度を設計することには、次の4つの目的と役割があります。
 

従業員のモチベーション維持・向上

公平で透明性のある報酬制度を構築することで、従業員は自身の努力や成果が適切に評価されていると感じ、やる気を持続させることができます。

たとえば、業績評価に基づいたインセンティブの導入は、目標達成への意欲を高めます。
また、非金銭的報酬(例:フレックスタイム制やリモートワーク環境)も組み合わせることで、従業員の満足度を向上させることが可能です。

従業員のモチベーションは、業績向上の鍵となる重要な要素です。
 

人材の確保と定着

市場相場に合った給与体系や柔軟な福利厚生は、求職者にとって大きな魅力になります。
さらに、既存の従業員が長期的に働き続けられる環境を整えることも重要です。
特に、キャリア開発を支援する研修制度やキャリアアップを評価する仕組みは、社員の成長意欲を促進し、企業へのロイヤリティを高めます。

現在、多くの企業が優秀な人材の獲得競争に直面しています。報酬制度は、他社との差別化を図る強力な武器となります。
 

人件費の適切な配分

報酬制度の設計は、企業が効率的に人件費を管理するための基本となります。
過剰な支出を抑えつつ、優秀な人材には競争力のある報酬を提供するバランスを取る必要があります。
たとえば、成果主義を導入することで、業績貢献度に応じて報酬を配分することが可能になります。

また、業界動向や社内データを活用し、給与水準を適切に調整することで、報酬に対する納得感を高め、離職を防ぐことができます。
 

経営ビジョンの実現に向けた方向性の統一

報酬制度は、企業の経営ビジョンや戦略を従業員全体に浸透させる役割も果たします。

具体的には、経営ビジョンや戦略を細分化した目標に基づき成果を上げた従業員に、より多くの報酬を支給する制度が考えられます。

また、長期的な目標を重視する企業では、ストックオプションや年次評価に基づく報酬が有効です。

さらに、報酬制度を通じて、組織の価値観や文化を伝えることができます。
たとえば、チームワークを重視する企業であれば、チーム単位での成果を評価する仕組みを導入することで、社員の協調性を高めることが可能です。

報酬制度の種類

代表的な報酬の種類は、以下の6つがあります。
 

基本給

基本給とは、従業員が労働の対価として毎月受け取る固定的な給与のことです。
職位や職責、業界標準、地域別賃金などを基に設定されます。
基本給は従業員の生活を支える基盤であり、公平性と安定性が重視されます。

業界水準や競合他社の給与体系を参考にしながら、企業の収益性とのバランスを取ることが重要です。
 

能力給

能力給とは、従業員の持つスキルや知識、専門性に基づいて決定される報酬のことです。
特に技術職や専門職では、従業員の能力を適切に評価するために導入されることが多いです。

能力給制度を導入することで、高度なスキルを持つ人材のモチベーション向上や、学習意欲の促進が期待できます。
たとえば、ITエンジニアが新たな資格を取得した場合、その能力を給与に反映するなどが能力給に当たります。
 

職務給

職務給は、従業員が担う役割や責任の大きさに応じて支給される報酬です。
管理職や役職者に対して導入されることが多く、業務の難易度や責任範囲を評価する基準となります。 
 

賞与

賞与は、企業の業績や従業員個人の成果に基づいて支給される報酬です。
年1回や2回支給されることが一般的で、「ボーナス」として広く知られています。

賞与には、主に次の3種類があります。

基本給連動型賞与

基本給連動型賞与とは、基本給をベースに計算される賞与で、従業員ごとの給与に一定の割合を掛けて支給額を算出します。

業績連動型賞与

業績連動型賞与とは、企業の業績に応じて支給額が変動するタイプの賞与です。
利益率や売上目標の達成度に基づいて支給額が決定されます。 

決算賞与

決算賞与とは、決算後の業績を基に、一時的に支給される賞与です。
特に、年間の利益が大きく出た場合に支給されることが多いです。 
 

インセンティブ

インセンティブとは、特定の目標達成や成果に対して支給される報酬のことです。
短期的な業績向上を促進するために利用されることが多く、営業職やプロジェクトベースの仕事で特に効果を発揮します。

例として、営業職における新規契約獲得に対する成功報酬が挙げられます。
 

手当

手当とは、従業員の業務や生活環境に応じた補助的な報酬のことです。

たとえば、以下のような種類があります。

  • 役職手当…管理職やリーダー職に対して支給。
  • 通勤手当…通勤にかかる費用を補助。
  • 住宅手当…家賃の一部を補助。
  • 家族手当…扶養家族のいる従業員に対して支給。

報酬制度設計の流れ

報酬制度を設計するための具体的な流れは、次の7ステップです。 
 

現状の分析・課題把握

報酬制度を設計する際は、まず現状の分析と課題の把握から始めましょう。報酬制度の改善が必要なポイントを明確化するためです。

具体的な方法として、次の3つが挙げられます。

  • 従業員アンケートや面談…報酬に対する満足度や不満を把握する。
  • 市場調査…同業他社の報酬体系と比較し、自社の競争力を評価する。
  • 業績データの確認…人件費が収益に対して適切であるかを確認する。

 

評価制度との整合性を確認

報酬制度は評価制度と密接に関連しています。従業員の業績やスキルをどのように評価し、報酬にいかに反映させるかが重要です。

整合性を確認するためには、まず評価基準の明確化を行う必要があります。 
 

報酬体系の設計

評価制度との整合性を確保した上で、報酬体系を設計しましょう。

以下の要素を含めてバランスよく構成することが重要です。

  • 基本給…職位や責任に基づく固定的な報酬。
  • 変動報酬…インセンティブや賞与など、成果に基づく部分。
  • 福利厚生…社内外の研修や働きやすい環境の提供。

 

基本給の設定

報酬体系を設計できたら、まずは基本給から設定していきましょう。

以下の要素を考慮して設定します。

  • 職務内容…業務の複雑さや責任範囲。
  • 市場調査…業界平均や競合他社の水準。
  • 企業の財務状況…支払能力を考慮。

公平性を確保するためには、同一労働・同一賃金の原則を守りつつ、役職や責任に応じた段階的な設定が求められます。
 

報酬・賞与テーブルの設計

報酬テーブルと賞与テーブルは、従業員がめざすべき目標を具体化するための指標となります。

  • 報酬テーブル…職位や職務グレードごとの給与範囲を明示。
  • 賞与テーブル…業績評価に基づく金額の決定方法を明確化。

報酬・賞与テーブルの設計により、従業員が自身のキャリアと報酬の将来像を描きやすくなります。
 

運用シミュレーション

新しい報酬制度を導入する前に、シミュレーションを行い、影響を予測しましょう。
シミュレーションを行うことで、想定外のリスクを事前に回避できます。

  • 人件費試算…変更後のコストが企業の収益性にどのように影響するかを確認します。
  • 従業員ごとの影響分析…新制度がどの従業員にどのような影響を与えるかを評価します。

 

従業員へ周知と運用

最後に、新しい報酬制度を従業員に周知し、運用を開始します。
運用に際しては、説明会を開き、制度の目的や運用方法を詳しく説明することで、従業員の理解を得ましょう。
従業員の納得感を得ることが、制度の成功の鍵となります。

さらに、定期的に見直しを行うことが大切です。制度の運用状況をモニタリングし、必要に応じて改善していきましょう。 

報酬制度設計のポイント

報酬制度を成功させるには、公平性を確保し、金銭的報酬に加えて非金銭的な要素も取り入れることが重要です。
ここでは、報酬制度設計のポイントをご紹介します。 
 

公平性のある報酬制度にする

公平性のある報酬制度にすることで、従業員の納得感を高め、制度の信頼性を向上させることができます。
公平性には主に、「内部公平性」と「外部公平性」の2つがあります。 

内部公平性

内部公平性とは、企業内での公平性を指します。職務内容や責任の程度が同等であれば報酬も同等であるべき、ということです。

各職務の役割や責任を詳細に分析し、明確な評価基準を設定しましょう。
また、従業員が自分の報酬がどのように決定されるかを理解できる仕組みを整備し、透明性を確保しましょう。 

外部公平性

外部公平性とは、競合他社や同業他社と比較して、報酬が市場水準と一致していることをいいます。
適切な外部公平性を確保することで、優秀な人材の確保と流出防止が可能になります。

市場調査を行い、同業界や同規模企業の報酬データを収集した上で、基準値を設定しましょう。
また、経済状況や業界動向に応じて、報酬水準を見直すことも大切です。 
 

非金銭的な報酬でモチベーションアップ

報酬制度を効果的に運用するためには、金銭的な報酬だけでなく、非金銭的な報酬を組み合わせることが重要です。非金銭的な報酬は、従業員の精神的な満足感や働きがいに直接影響を与え、長期的なモチベーションの向上に寄与します。 

キャリア開発の支援

従業員がスキルを伸ばし、成長を実感できる環境を提供することは、非金銭的な報酬として非常に有効です。キャリア開発を支援する仕組みは、従業員の自己実現欲求を満たし、企業へのロイヤリティを高めます。

■キャリア開発支援の具体例
スキルアップ研修: 専門的なスキルやリーダーシップ能力を高めるための研修プログラムを提供します。特に、業務に直接関係するスキルだけでなく、自己啓発のための研修も有効です。
キャリアパスの明示: 昇進やキャリアアップのプロセスを明確にし、従業員が自身の将来像を描けるようサポートします。
資格取得支援: IT分野や語学など、業務に関連する資格の取得費用を補助する制度を設けることで、学習意欲を高めます。
これらの取り組みは、企業が従業員の成長を真剣に考えている姿勢を示すことにもつながります。 

働きやすい職場環境の提供

物理的、心理的に働きやすい環境を整備することも、非金銭的報酬の一環として重要です。快適な職場環境は、従業員のパフォーマンスを向上させるだけでなく、ストレスを軽減し、定着率を向上させます。

■働きやすい環境の整備例
柔軟な勤務形態: リモートワークやフレックスタイム制の導入により、従業員が自分のライフスタイルに合わせて働ける仕組みを提供します。
快適なオフィス空間: オープンなレイアウトやリラクゼーションスペースの設置、最新のデジタルツールを取り入れることで、効率的かつ快適な作業環境を作り出します。
メンタルヘルスサポート: 従業員がストレスを軽減できるよう、専門のカウンセリングサービスやストレスマネジメント研修を提供します。 

社内文化と福利厚生

従業員が帰属意識を持てるような社内文化の醸成や充実した福利厚生も、非金銭的な報酬としての効果が期待されます。

■社内文化と福利厚生の具体例
社内イベントの実施: チームビルディングイベントや社員旅行、スポーツ大会など、社員同士が交流できる場を設けることで、組織全体の一体感を高めます。
ユニークな福利厚生: たとえば、ペット同伴出勤制度や従業員専用のフィットネス施設など、他社との差別化を図った取り組みが注目されています。
地域社会との連携: 地域ボランティア活動やコミュニティ支援活動を推進することで、従業員に社会貢献の機会を提供します。 

表彰制度の導入

非金銭的な報酬の一環として、従業員の努力や成果を認める表彰制度を導入するのも効果的です。感謝の意を表明し、貢献度を称えることで、従業員のモチベーションをさらに高めることができます。

■表彰制度の例
月間MVP表彰: 特に優れた成果を上げた従業員を毎月表彰し、社内で共有します。
チーム単位の表彰: チームで達成した成果を評価することで、協力体制を促進します。
感謝カード制度: 同僚同士が感謝の気持ちを伝えられるカードを導入し、日々の小さな貢献を認め合う文化を作ります。 

まとめ

報酬制度の設計は、企業の成長において極めて重要な要素です。
正しい目的を持ち、従業員のモチベーションを高める制度を設計することで、組織全体の生産性と競争力を高めることができます。企業規模や業種に応じた柔軟な制度設計を実践することが、成功の鍵となります。

報酬制度は、一度構築すれば終わりではありません。市場動向や従業員のニーズの変化に応じて、定期的に見直しと改善を行うことが必要です。
また、新しい制度の導入時には、従業員への丁寧な説明と周知を徹底し、制度に対する理解と納得を深める努力が求められます。

適切な報酬制度を設計するための第一歩として、ぜひ本記事を参考にしてください。

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